きみはいくさに征ったけれど
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竹内浩三の
ポートレート
山田洋次(映画監督)
竹内浩三の有名なポートレートが二枚ある。
ひとつは学生時代。
角帽をちょっと不良っぽくアミダにかぶり、ゆがめた唇から今にも皮肉な警句がとび出してそのあと大口をあけて笑い出すんじゃないか、と思わせるような表情。
もう一枚は軍服姿。
あのカーキ色の野暮ったい服を着るのはどんなに嫌だっただろうかと想像するのだが、しかし彼の表情は学生服姿の時とほとんど変らない、今にも吹き出しそうな、なにかとてつもなく面白いことを考えているかのようにニヤニヤしている。
あの時代、軍服姿でカメラにおさまる時は誰でもきまじめな、厳そかな表情になったものだ。
竹内浩三のようにニヤニヤした軍服姿の写真など、見たことがない。
軍隊の中で殴られたり蹴とばされたりしながら人を殺す教育を受けていても、彼のやわらかな人間性はいささかも変ることがなかったのだろう、それでなくてあのような人間味のあふれる表情でカメラに収まるわけがない、とぼくは思う。
あの写真を撮った何年後だろうか、多分二、三年以内だっただろう、この天才詩人はフィリピン戦争で無慚な死を遂げる。
米兵かゲリラの弾にあたったのか、あるいは餓死――その可能性の方が大きいかもしれない。
今際のきわに彼は何を思い、何を口にしたのだろうか。
竹内浩三を死に追いやったのは誰だ。
誰がその命令を出したのだ。
その責任は誰にあるのだ。
戦争を憎むという言葉を吐くのはたやすいが、しかし竹内浩三の戦死については、責任者出て来い、と思わず声をあげたくなる。
ぼくはそれくらいこの人が好きだ。